春葬

あたたかい季節は日が長いだけじゃなく日が昇るのも早いようで、4時頃には外が明るくなってくる。

 外は風があるから肌寒いけど、部屋にいるぶんには一日中窓を開けていても平気で、揺れるカーテンの音とか遠くで聞こえる工事の音とか小さな鳥の声とかが気持ちいい。

自分の部屋はアパートの割に窓が多い。1番大きい窓は壁のほとんどを占めるくらいの大きさで、この部屋は春のためにあるのだと思う。今はこの季節のいいところを乗せた風が穏やかに部屋を通り抜けるけど、冬なんかは寒くて眠ることもできない。

だいたい毎日天気もよくて、早朝に目が覚めたときのひんやりとした空気とか、またうとうとしている間の心地良さとか、長く寝てしまっても1日が長いから罪悪感も薄いこととか、いろんななんでもないことが冬でめちゃくちゃになった生活や体や心に優しくしてくれる気がする。夕方から夜になるのもゆっくりで、もうすぐ夜だよとこっちに教えてくれるから、暗くなったときに自分の気持ちまで巻き込まれなくて済む。

 

けど、きっともうすぐ終わるこの季節への焦りも感じ続けている。空気が穏やかだからといって時間がゆっくり流れてくれるはずもなく、むしろあっという間に過ぎ去っていく。春は短い。桜が南から咲き始めて北に向かうのを追うように散って、最後の桜が散る頃に春は終わる。桜は早く散るから美しいなんてことも聞くけど、この穏やかな季節が続いてくれるなら、桜の美しさがわからなくなってしまってもいいとさえ思う。置いていかないでほしい。あっという間に去っていき、また訪れることはわかっていても、いつだってその時まで自分は生きていられる気がしない。今の穏やかな風を部屋に閉じこめておこうとしたって、翌朝には腐ってしまう。行かないでほしい。春よ、どうかあと少しだけここにいて欲しい。