おかね

社会は冷たくて厳しい。

学費が払えないから、辞める。決心するまで半年以上かかった。ついにゼミの教授にも話した。教授は責めるでも引き止めるでもなく、そのことをあまり気に病まないようにと話してくれた。器の大きい人だ。

でもその日の夜教授から電話がきて、辞めるとしても学費を払わないといけないらしいと聞いた。

次の日事務に行って聞いたら、まあ、唖然とした。

今から支払っても期限切れだから退学処分。

今年度中に払えなかったら除籍処分された後請求。

 

頭が混乱した。払っても退学。払えなくても請求。どういうことだろう。払っても払わなくても卒業はできない。在学もできない。払わないと退学もできない。ぐるぐるした。

 

除籍されたあと、支払いの期限はどのくらいなのか聞いた。はっきりとはまだわからないけど1年とかそのくらいかもしれないらしい。それでも払えなかったら、裁判になる、って。

 

ますます混乱した。もう訳が分からなかった。事務の人は困った顔をしていた。わかりました、ありがとうございますと言って離れた。ぐるぐる。返済。期限。裁判。法的措置。お金。140万円。1年。訴える。起訴。犯罪。逮捕。ぐるぐる。

 

家に帰ってもずっとそのことを考えていた。訳が分からないまま勝手に涙がでてきて泣いた。裁判。いままで学校にいろんなことで協力した。いろんなことで大学の名前を売った。いっぱい勉強した。いろんな教授と仲良くなった。事務の人たちとも仲良くなった。でもお金が払えなかった。裁判。

 

当たり前のことだ。お金を払う約束で入学した。破ったのはこっち。裏切ったのはこっち。だけど、手のひらを返されたと思ってしまった。社会は冷たくて厳しい。ずっと前から知っていた。知っていたはずなのに。悲しかった。惨めだった。

 

学費を払うためにたくさんバイトをした。そしたら鬱になった。働けなくなった。払えなくなった。どこが間違いだったんだろうと考える。こんなこと、言ってたまるかってずっと思ってたけど、わかってしまった。大学に入ったことがもう間違いだった。所詮無謀だったんだ。馬鹿な夢だったんだ。せいぜい良くて800円の時給で、1人で全部やってやろうなんて。馬鹿。絵に描いた餅。世間知らず。自分には、この悲しい気持ちを話せる相手すらいない。何も無い。消えてなくなりたい。

 

ぜんぶ捨てて、友達みんなと縁を切って、遠くに行きたい。誰も知らないところで死にたい。