奪う

「自分には貴方のことがわかるよ」なんていうのはわかってないから言えることで、見下しているから言えることで、尊重など微塵もしていないから言えることだ

そうでなければ言えないだろう、結局人は生まれてから今の瞬間まで一緒だったことなんてたった一瞬すらないし、耳に残る音や今でも心臓を潰す言葉や吐き気のする匂いを伝えることなどできないし、文字や言葉なんてのはただ圧縮と簡略化でわかりやすくするツールであって本当のことは自分から外には出ていかない。ましてやそのツールを使って何かを明かしたわけでもないのに何がわかるんだろう?何も教えてはいないのに。わかるのなら寧ろこっちに教えてくれよ、自分はこうして自分だけでも思い出せる圧縮された形でここに書き出すことができるようになるにもやっとだったのに。

言わないことが正解、死ぬまで墓まで。何度も誓ったことをほんの少し侵しては酷く悲しい思いをして、孤独は深まるばかりで、また刻みつける。17歳の日、自分にかけた呪いはどこまで行っても正しくて、傷を増やしているのは今の馬鹿な自分だ。誰も信じてはいけない、心を許すなどあってはならない、隙を見せれば搾取するのが人間で、微かに近しいものを感じて油断と期待をしたときがいちばん危ない。共感や同情に見せかけた言葉は達観した己を信じてやまない者の自慰行為で、「見通しのいい場所」に座っている実感と快感を得るために平気で他人の領域を侵す。人間の脳が想像できることは結局自分が経験したことがある事象だけ、そこに他人の年月やその心の波や頂上や地底を勝手に都合良く想像した形で当てはめる、「自分には貴方のことがわかるよ」、その軽薄な舌と使い物にならない脳ををミキサーにかけてぐちゃぐちゃに掻き混ぜてゴミ捨て場を漁るカラスに食わせてやりたい。そういう人間がもしこの文を目にするようなことが万一あっても勝手に搾取するだろう。化け物に言葉は通じない、物心ついた頃からわかっていたこと。どうあってもあるのは他人と他人、たとえ分かち合おうとしたとしてもそんなことは不可能だ、ましてや望んでもいなければその境界線に何かを及ぼすことなどできるはずもない。これだけは自分のもの、誰にも渡さず明かさずひたすらに隠して守ってきたもの、最後の砦の奥に潜めた心臓、自分の命を繋いできたもの。自称神のうぬぼれ、その肥大した欲の肥やしにするために赤の他人の命を奪うな、死ね化け物が