眠れなくて、結局諦めた。少しだけ意識が落ちていたようだけど、嫌な夢を見て起きた。心臓が痛い。

物心ついた頃から寝つきは良くなかったけど、高校生のときくらいから酷くなった。眠れたとしても夜中に突然目が覚めてしまったり、そのまま朝までまた眠れなかったり。でも身体は疲れているから動けない。大学生になる頃にはほとんど毎日悪夢を見るようになった。

 

何もできずにいる夜の間は嫌なことや理不尽なことばかり思い出す。嫌いなことで頭がいっぱいになる。夜になると苛ついて、「寝る」ということ自体が嫌いになった。一時期3日に1回しか寝ない生活をしていたことが数ヶ月間あったけど、身体はぼろぼろだった。眠れなければ身体が壊れるし、眠れば悪夢を見て心が壊れる。睡眠は生物から切り離せないものだと知ったから、自分が身も心も大丈夫になることなんて無いことも理解した。生きるのに向いていない。

毎晩嫌でも思い出すのだから、一生忘れることなんてできないんだろう。でもそれを望んだのは過去の自分自身だったとも思う。絶対に忘れてやるものか、絶対に許してやるものか、と呪いをかけたのはきっと自分だ。目を背けようとすればするほど、絶対に忘れるな、絶対に許すなと自分が呪っている。あの暴力も否定も恐怖も全て理不尽なもので、決して許されていいはずがない。あの夜包丁を持って憎い人間の寝室のドアの前で震えていた自分しか、その罪を証明できない。殺せと今でも頭の中で恨み言を吐いている。限りなく憎い人間が生きている世界で生きていくなんて無理だった。刃の尖った鋏を買った日に、朝ぼんやりと駅で電車を待っていた日に。あのとき殺せばよかったと、あのとき死ねばよかったと考える日が数え切れないほどある。いつだって夜だ。夜は嫌いだ。